伽揶子のために

昭和三十三年の夏の終わり、大学生だった林相俊は、北海道の森駅に降り立った。父の親友の松本秋男を訪ねるためである。樺太から引き揚げて十年ぶりの再会であった。松本はトシという日本人の女性を妻にして、縁日でおもちゃを売って生計を立てる貧しい暮らしをしていた。そこに、伽揶子(かやこ)という高校生の少女がいた。相俊は樺太での記憶をたどるが、その少女は知らなかった。伽揶子は本名を美和子といい、敗戦の混乱期に日本人の両親に棄てられた少女だ。

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